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第1回演奏会にて演奏終了しておりますが、海神交響楽団の立ち上げのきっかけとなった大切な曲ですので、解説を残しておきます。

チャイコフスキー/交響曲第2番「小ロシア」(1872年原典版)について


後期交響曲と比べてあまり演奏機会のないチャイコフスキーの前期交響曲。

最近は演奏回数も増えた交響曲第1番「冬の日の幻想」に比べ、第2番、第3番は今でも演奏されることは少ないですよね。

交響曲第2番を原典版でやるよ!と言ってみても、もともと交響曲第2番を聴いたことがないので・・・という方が多いのではないでしょうか。


前期交響曲の中で、交響曲第2番、特に原典版が若いチャイコフスキーらしく最も活き活きとして、また全楽章通して聴きやすくまとまっていると私は感じます。

あまり音楽の理論的なハナシは私もわからないので、自分でも理解可能な範囲で解説してみます。


■改訂の経緯と原典版の好評

タイトルの「小ロシア」とは現在のウクライナのこと。

ウクライナ民謡をモチーフにした交響曲であることから、後にチャイコフスキーの友人であるカシュキンが名付けました。

最近のウクライナ情勢もあるので、ウクライナを「小ロシア」と呼ぶのは蔑称めいた感じがしないでもないですが、そういうタイトルなのでそのままで。

旅行大好きなチャイコフスキーは、夏を旅先で滞在して過ごすのが好きでした。
特に、妹アレクサンドラの嫁ぎ先の領地であるウクライナのカメンカは生涯通してお気に入りの場所で、チャイコフスキーにとっては第二の故郷とも言える土地です。
チャイコフスキーがまだ売り出し中の作曲家で、モスクワ音楽院で教授をして生計をたてていた頃。

当時は民俗音楽を取り入れるなどして自国色を打ち出すロシア国民楽派が盛り上がっていて、チャイコフスキーもロシア民謡を集めたピアノ連弾集を出したりなどしていました。

1872年(32歳:右の写真はもっと若い20代です。意外にイケメソだったので・・・)夏のカメンカ滞在中、そこで聴いたウクライナ民謡を取り入れた交響曲のスケッチを行い、秋にはモスクワに戻って交響曲を完成させます。

交響曲第2番は初演から好評で大成功でした。

しかし、この後10年ほどチャイコフスキーは音楽的な過渡期に入り、軽やかで優雅な古典音楽に惹かれたり(もともとモーツァルト大好き)、西洋の洗練された音楽にも触れ(特にフランスのビゼーやドリーヴが気に入ったようです)、自身の概念が変わっていきます。

改訂作業を行ったのは交響曲第4番を完成した1877年よりさらに後の1879年。原典版作成より7年後。

気に入らなくて後で手直しした昔の曲はいくつかあるようですが、特に交響曲第2番の第1楽章は未熟と感じたようで(ノд・。)

概念の変わったチャイコフスキーに、第1楽章は騒がしく支離滅裂で、あり得ないとまで感じられてしまったのですね・・・。

改訂作業はわずか3日間で終わったそうです。

曲全体が短くまとめられ、演奏もしやすくなったでしょ?と自分でも言っています。

実際演奏してみた当団団員さんからも原典版の方が難しいという感想は出てますね。オーボエも高音続きが軽減されてる所がいくつか。当時のオーボエ奏者からキツいって言われたのかな(笑)

チャイコフスキー自身は気に入らなかった交響曲第2番の原典版は、後にいろいろな人から評価されるようになりました。

●原典版のペテルブルグ初演指揮をした指揮者ナープラヴニーク

●チャイコフスキーの音楽院教授時代からの弟子であり、彼の音楽の最大の協力者であるタネーエフ

●交響曲第2番に「小ロシア」の名前をつけたチャイコフスキーの友人で評論家のカシュキン

●近年のチャイコフスキー研究家デビッド・ブラウン

上記の専門家の方々が、原典版と改訂版を比較して、明らかに原典版の方が印象的と考え、是非両方を聴き比べる機会をもっと作り、原典版はもっと世に出るべきだと考えました。

そして団長をはじめ、聴き比べてみた海神交響楽団の一部メンバーの耳にもそのように聴こえたようです。

最初は海神交響楽団でも普通に改訂版で演奏予定だったのですが、原典版にチャレンジしてみようよ!という流れになったのでした。

スコアも見つけちゃったしね・・・


■第1楽章

改訂するにあたり、ほとんど書き換えられているのが第1楽章です。

有名なロシア民謡「母なるヴォルガを下りて」をウクライナ風にアレンジしたというメロディーが第一主題として、冒頭ホルンソロ→ファゴットソロと引き継がれて演奏されます。

この冒頭部分は原典版でも改訂版でも同じです。

しかし、この民謡による序奏が終わった53小節目第二主題以降が全く違う曲に書き換えられました。

改訂版は軽やかに跳ねるような第二主題が続きますが、原典版ではゆったりネットリ、まさにロシア的な雄大さと力強さで発展していきます。

特に1楽章を通して金管の迫力のある活躍は原典版の方がダントツです。

ホント、カッコイイです。原典版第1楽章クライマックスのトランペット&トロンボーン。

「母なるヴォルガを下りて」の主題全奏へと向かう2回のクライマックス、弦楽器と木管楽器の上昇系の中を駆け降りてくるような上記金管群の吹き方、1回目と2回目で順番違うんですね・・・。芸こまかいですね。ここカッコよくて好きです。

改訂版もご本人が推すくらいなので良いのですが、あえて悪い言い方をすると、改訂版は原典版と比べて・・・無難で地味な感じに聴こえてしまいます。

原典版第1楽章のロシア的土臭さ、そして野暮ったさが、後世のファンからは初期チャイコフスキーらしくて印象深いと評価されるのかも!

まぁ、本人らしさって自分より他人の評価の方が的を得ていたりしますよね。

当団に参加している奏者が、「前に交響曲第2番を聴いた時にはたいした印象も無かったけど、原典版を聴いてみて良いというのは確かにわかった。」と言ってくれたことがあります。

それですよ!それ!

チャイコフスキーの交響曲第2番を聴いたことがあるけど、特に・・・だった方も、原典版の第1楽章を聴いたら「あ!イイ曲!」と思うかもしれません。

ちなみに半音階で3音ずつ上がって行く原典版の第二主題のメロディーは、改訂版にも形を変えて残されています。


■第2楽章

これは原典版と改訂版ほぼ同じです。

微妙に違うところもあるようですが、何度も演奏練習している私たちも気が付かないレベルです。

マーチ風の曲で、もともとはチャイコフスキーの幻のオペラ「ウンディーネ(水の精)」第三幕の結婚行進曲だったそうです。

まだ音楽家としては駆け出しのチャイコフスキーが1869年に作曲したオペラ「ウンディーネ」は、マリインスキー劇場に打診するも、上演予定がギッシリだったために断られ、演奏会形式で数曲を演奏しただけでお蔵入りとなりました。

しかし、「ウンディーネ」の中の数曲はチャイコフスキーの作品中に転用され、名曲として残されています。

ひとつはこの交響曲第2番第2楽章、そして交響曲第2番の少し後に作曲された劇付随音楽『雪娘』、そして1876年に作曲された超有名な『白鳥の湖』第2幕、オデットと王子の愛のパ・ド・ドゥに。

第2楽章の中間部はウクライナ民謡「回れ、私の糸車」を引用しています。

チャイコフスキーは「ウンディーネ」を作曲したのと同じ1869年にロシア民謡を集めて四手連弾のピアノ曲にした『50のロシア民謡』を出していますが、その第6曲に「回れ、私の糸車」があります。

こんな曲です↓

Keep on Spining,My Spinner(mp3ファイル_6.3MB)

そのまんまですね。

こう書くと、第2楽章は3年前の自作曲の切り貼り楽章ですね。

チャイコフスキーの作曲したオペラ「ウンディーネ」がどんな曲だったのか、全貌が気になります。
「ウンディーネ」の物語を音楽にした作曲家は他にもいますが、ストーリーは切ないです。
人間の男性と結婚した水の妖精は魂を得ることができますが、男性が他の女性を愛するとその妖精に殺されるというお約束付きです。それと共に妖精自身も魂を失うことになります・゚・(ノД`;)・゚・
そして、ウンディーネが死んじゃうラストの曲が、「白鳥の湖」に転用されているものだそうです。

書いてみましたが、第2楽章には転用しただけなのでストーリーは関係ないと思います。


あ、私この楽章の曲大好きです。最初に改訂版聴いて一番印象に残りました。


■第3楽章

原典版と改訂版、曲調が似ているので一回聴いたくらいだと同じかな?と思いますが、演奏してみたら構成が冒頭から全然違いました!

しかし、この楽章も原典版の方が細部が複雑にできていて、改訂版の方がシンプルスッキリ!といった印象です。

そして原典版、楽章ほぼ全部を2回繰り返す作りになっていました。

演奏も疲れるし非常に長くなるし聴いてもダレるので、演奏会では繰り返ししません!

唯一原典版全曲録音CDを出しているジェフリー・サイモン指揮&ロンドン交響楽団の演奏も繰り返しはカットでしたのでイイとおもいます。

この楽章に民謡引用はありません。

なんとなく田舎のフォークダンスっぽい雰囲気はします。


■第4楽章

キタキター!という感じの全奏ファンファーレではじまる楽しく元気な4楽章。

楽章全体がウクライナ民謡「鶴」変奏曲です。
日本の「かえるの歌」にちょっと似ています。

団長がこの楽章を「かえるの歌」と「チューリップ」の歌詞だけで歌ってるのを聴きました。

「鶴」を動画検索すると、ロシアの小さい子供がヴァイオリンやピアノの初めての発表会らしき場でぎこちなく演奏しているものがたくさん出てきます。

単純な音形のメロディーなので、ロシアの楽器初心者の定番曲なのかもしれないですね。

ヴァイオリンで「鶴」を演奏する女の子の動画(youtube)

↓民謡として一番わかりやすいのはコレかな?

ウクライナ民謡「鶴」を振り付きで歌う少年の動画(youtube)

1873年1月に、リムスキー・コルサコフの家で先行して第4楽章だけが初演されましたが、その時にリムスキー・コルサコフ夫人は涙を流して絶賛したそうです。

その後の全曲初演でも第4楽章は特に讃美の対象だったそうで、改訂時もほとんど手を加えられていません。

カメンカの妹の家に滞在中、使用人が「鶴」を歌っているのを聴いて着想したらしく、チャイコフスキーは交響曲第2番成功の真の立役者は使用人だと言っていたそうです。

改訂するにあたり、手は加えられていませんが、減らされてはいます。

途中150小節ほどカットされました。

このカットを復元することにより、盛り上がりどころをもう一度、さらに「かえるの歌」を増量で聴けるお得な感じになるはずです。

大学生時代にソビエト国立交響楽団だったかの交響曲第2番(もちろん改訂版)をサントリーホールに聴きに行ったことがありますが、4楽章演奏直後に後ろに座っていたカップルのお兄さんが「うるせー曲だな」と言ったのが忘れられない、ffだらけの曲です。

交響曲第4番第4楽章に負けず劣らずシンバルバシバシ叩いてます。


そして、今これを書きながら気が付いてしまって感動しているのですが、チャイコフスキーの未完成作品である交響曲第7番第3楽章の中間部、スケルツォの早いテンポから緩徐に変わるゆったり美しいメロディ、あれも「鶴」だそうです♪ほんとだーなんかうれしーO(≧▽≦)O

興味のある方は探してみてくださいね〜。


■原典版の音源

原典版の録音CDは以下の2種が出ております。

今回、原典版の楽譜を求めてロンドン交響楽団に問い合わせを試みたところ、ライブラリアンのJoe氏から丁寧にお返事をいただき、スコアのありかも教えていただきました。(パート譜はロンドン交響楽団にも存在せずでした。)

●ジェフリー・サイモン指揮/ロンドン交響楽団
※原典版全楽章を収めた演奏はこれが唯一かと思います。
http://ml.naxos.jp/album/CHAN10041

●ミハイル・プレトニョフ指揮/ロシア・ナショナル管弦楽団
※改訂版の全楽章にボーナストラック的に一楽章だけ入っています。
※ロンドン交響楽団版に比べ、緩急が極端な演奏です。


■参考文献

森田稔:著/チャイコフスキィ
サハロワ:著(岩田貴訳)/チャイコフスキィ(文学遺産と同時代人の回想)
Thaikovsky-research.net
Wikipedia




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